『ORIGINALS』は人間がもつ個性を発揮するには、どのようにすればよいのかをアメリカの心理学者アダム・グラントがまとめた書籍です。この記事では、『ORIGINALS』の要約と重要ポイントを解説します。
結論・まとめ
- オリジナルな人とは、自らのビジョンを率先して実現していく人である
- オリジナリティを発揮したければリスク・ポートフォリオのバランスを取れ
- 優れたアイデアを出すには質より量。アイデアの判断は自分ではなく同僚に
- 組織・企業の中でも自分の抜け道を確保し、発言していくこと
- 先延ばしは創造性の源である
- 子どもをしつけるときには、なぜそれがダメなのか説明する
- エレネミーとは縁を切れ
- 不安な気持ちを利用する
オリジナルな人とは「自らのビジョンを率先して実現していく人」
本書で定義されている「オリジナルな人」の定義は、「自らのビジョンを率先して実現していく人」です。既存のシステムや考え方を疑い、率先して壊し、新たなものを築き上げていく人だと述べられています。
政治心理学者のジョン・ジョストのチームの研究によると、再低所得者層は、最高所得者層と比較して、一貫して「現状を維持しようとする」傾向がありました。既存のシステムを正当化すると心が落ち着く「感情の鎮静剤」の効果があります。何かを変えようとすることはエネルギーがいることです。皮肉なことに、現状を打開するべき再低所得者層は、現状を維持しようとするのです。
ブ・ジャ・デ
初めて見る光景なのに、何だかみたことがある……。これをデ・ジャ・ブとよびますが、オリジナルな人は、すでにある光景を新たな視点で見つめ、新たな洞察を得ること「ブ・ジャ・デ」を行っています。この「ブ・ジャ・デ」の原動力となっているのが好奇心。
現在あるシステムや考え方に好奇心を持って見つめれば新たな視点が得られます。
天才児が凡人になってしまう理由
幼少期に「天才」と呼ばれた子どもたちが大人になると凡人になってしまうのは、よくあることです。これは、天才児は「今ある枠組みの中では」天才であって、新たな物事を作り出すことはできないからです。
起業家は一般人よりもリスクを好まない!?
起業家というと、リスクを好んで突き進む人というイメージがありますが、実際は真逆であることがわかっています。経営管理学研究者のジョセフ・ラフィーとジー・フェンの研究によると、本業をやめて起業した人よりも、本業を続けたまま起業をした人のほうが失敗率が33%低かったことが明らかになっています。リスクを嫌ってアイデアの実現可能性に疑問を持っている人のほうが会社の存続可能性は高いのです。
オリジナリティを発揮したければリスク・ポートフォリオのバランスを取れ
ミシガン大学の心理学者クライド・クームスは、ある分野で危険な行動を取ろうとするなら、別の分野で慎重に行動することで、全体のリスクのバランスを取ろうとする説を提唱しています。
ある分野において安心感があれば、別の分野で多少のリスクがあるオリジナリティあふれる行動が取れるメリットがあります。
大胆に発想し、緻密に実行する
オリジナリティを発揮できないのは、創造力が足りないからだと考えがちですが、実際はそれよりも、アイデアの「創出」ではなく、「選定」が重要であると述べられています。
斬新なアイデアを「創出」しても、そのなかから適切なものを「選定」できていないことが問題なのです。
ベートベンもピカソも自分の傑作に気づけなかった
ベートベンは、名だたる音楽家の中でも自己批判的な見方ができる作家として知られています。しかし過去に自らの作品70を評価したものと、音楽専門家の評価と比較すると15作品が「偽陽性」つまりベートベン自身は人気が出ると考えたが実際にはそうではないと明らかになっています。ベートベンですらも33%のエラー率があったのです。
さらにピカソは、あの「ゲルニカ」を描いた際、79の習作を描きましたが、結局最終的にデッサンのもとにしたのは、初期のものでした。描けば描くほど「行き詰まり」になっていましたが、79もの数にいくまで気付くことはできなかったのです。
とにかく「質より量!」
心理学者サイモントンによると、ある分野における天才的な創作者は、同じ分野に取り組む他の人達と比べて、とくに創作の質が優れているわけではないと言います。
また発明家のエジソンは、マイナーな製品を多数生み出した時期に、メジャーな製品も最も多く生み出している事が多いそうです。
優れたアイデアを発掘するには?
ここまでアイデアは創出するよりも選定のほうが重要であることを解説しました。ここで気になるのが「ではいったい、どうやって優れたアイデアを発掘すればよいの?」ということかと思います。
サーカスのパフォーマンスに関するバーグの研究で明らかになったのは、自分自身や管理者(役職者)では、優れたアイデアは選定できないということ。ではだれが一番優れたアイデアを選定できるのか?それは同僚です。同じ分野の仲間や同僚の意見を聞くことで、優れたアイデアを選定したりブラッシュアップすることができます。
直感はどこまで信頼するべきか
ノーベル賞受賞者である心理学者ダニエル・カーネマンとゲーリー・クラインの解説によると、直感が頼りになるのは、予測可能な環境下で経験を積んだときだけだと言います。よく知らない分野においては、じっくりと分析をしてから判断をしたほうが正しい判断が下せます。
周りを巻き込んでいくには
悲観的なことを言う方が頭がよく見識があるように見える
心理学者テレサ・アマビールの実験によれば、とある文章の「称賛した書評」と「批判的書評」2つを被験者に読んでもらい「どちらが頭が良さそうに見えるか」を質問したそうです。その結果、「批判書評」のほうが知性を14%高く評価され、文学的な専門性は16%高く評価されたんだとか。このことからもわかるように、私たちは褒めちぎるよりも、どこかで欠点を見つけなければと考えています。
優しい上司よりも気難しい上司
他社や慣習に立ち向かうことをいとわない人は、「トゲのある人」です。優しい上司よりも気難しい上司にアイデアを提案するほうが、「どのような反論がくるか」を予め考えながら発言できるため、よりアイデアが洗練されるそうです。
また会社や組織の中で、アイデアを実現したい場合、中間管理職である自分の直属の上司よりも、役員クラスの上層部と部下を身につけることが一番効率的であると述べられています。
スティーブ・ジョブズに反論して成功した平社員
Appleの流通業務に携わるデビュンスキーはスティーブ・ジョブズのきまぐれな提案がAppleに大打撃を与えると確信していました。そこで上司の上司と面談を設け、対抗策を作る猶予を30日設けなければ退職すると宣言しました。その結果、デビュンスキーの行ったことは成功し、昇進を果たしました。
重要なのは会社や組織で自ら発言しながらも、リスク・ポートフォリオを安全に保ち、必要であれば会社や組織から立ち去る準備をしておくことです。
残念ながら、皆がスティーブ・ジョブズのように部下の意見を聞き入れる柔軟性を備えた上司ではありません。重要なのは、例え結果的にそれが聞き入れられなかったとしても、発言することを辞めないことです。なぜなら私たちが後悔するのは、「行動を起こした場合での失敗」よりも「行動を起こさなかった場合の失敗」のほうが大きいからです。
「タイミングの科学」最適なチャンスを見極めるには
先延ばしは生産性の敵だが、創造性の味方である
ジヘ・シンの実験によると、提案書を期日通りに提出した学生よりも、提出を先延ばしにした学生の提案書のほうが第三者からの創造性に関する評価が28%高かったそう。
先延ばしは「生産性の敵」かもしれないが、「創造性の源」であると著者は述べています。ただし、注意したいのが、必ずしも先延ばしをすれば誰でも創造力が高まるということはないということ。
先延ばしをする上で重要なのは、戦略的に先延ばしをし、さまざまな可能性を試し、改良することによって少しずつ進めていくことです。
先発者よりも後発者のほうが有利?
マーケティングの研究者ピーター・ゴールダーとジェラルド・テリスは「先発企業」と「後発企業」の状況を比較しました。その結果、先発企業の失敗率が47%であるのに対し、後発企業の失敗率は8%だったことがわかりました。後発企業は先発企業を分析し、さらに新たなエッセンスを取り入れる「いいところどり」をすることで成功を収めやすくなっています。
「オリジナル」であるということは、必ずしも先発者である必要はなく、他よりも優れ、異なると言う意味でもあるのです。
年をとったら終わりか?
オリジナリティを発揮する人のなかには、アインシュタインのように20代の頃から成功する人もいれば、ヒッチコックのように60代を過ぎてから代表作を生み出す人もいます。本書では下記の2種類に分けられていると述べています。
概念的イノベーション:大胆なアイデアを思い描いてすぐに実行に移す人。早い段階で成功を収める人。例えるなら短距離走者
実験的イノベーション:試行錯誤を繰り返し進化を遂げていく人。概念的イノベーションの人よりも成果を出すのが遅い。例えるならマラソン走者
どちらが良いというわけではありません。アインシュタインの「相対性理論」のように概念的な発見は若いときに見つけやすく、実験的イノベーションは、忍耐力があるのですぐに枯渇しないなど、それぞれ特性が異なります。
誰と組むか?
オリジナリティなアイデアを持っていても誰と組むかによってそのアイデアが実現できるか否かは変わってきます。ここでは自分以外の他者と組む際に注目すべきポイントについて解説します。
同族嫌悪?似ている者同士ほど嫌い合う心理
精神科医のフロイトが示したように「非常に似通っている者同士の僅かな違いこそが、互いの間に違和感や敵意と行った感情を生み出す原因になっている」と述べています。ある研究では、ビーガン(動物性由来のものを一切口にしない菜食主義者)とベジタリアン(菜食主義者だが、乳製品や卵などは食べる)それぞれに互いを評価してもらうと、ビーガンのベジタリアンに対する偏見は、ベジタリアンのビーガンに対する偏見と比較して3倍も多かったそうです。
オリジナリティを発揮するには「節度ある過激派」になること
研究者デブラ・メイヤーソンとモーリーン・スキャリーの発見によると、オリジナルな人が成功するには、「節度ある過激派」になることが重要です。成功を収めるようなオリジナルな人は、これまでの伝統に縛られない価値観やアイデアを持っていることが多く、これを実現するにはより主流にいる多くの人達に伝える必要があります。
その方法は、アイデアのもっとも過激な部分をあいまいにすることによって実現できそうにないことを実現できそうに見せるというもの。「なぜ」から「どのように」へと焦点をずらすことで過激さが和らぐと言います。
オリジナルな人が仲間を集めるときには、本当のビジョンを隠すとみずからの「とんがった部分を抑えることができます。これには、営業でよく使われる「フット・イン・ザ・ドア」テクニックが使えます。つまり小さい要求を出し、足がかりを確保してから大きい要求を出すことが有効であると述べられています。
フット・イン・ザ・ドアテクニックはこちらの記事でも紹介しています。
誰と付き合い、誰と縁を切るべきか
経営管理学教授のミシェル・ダフィーの研究によると、フレネミーは一番悪い影響を与えるため、縁を切ったほうが良いということが明らかになっています。フレネミーとは、時には応援をしてくれるが、時には邪魔をしようとする人たちのこと。曰く「態度が一貫しない態度のひととのつきあいは感情的なエネルギーを消耗し、うまく対処するための方策がより多く必要となる」と述べています。
説得するのではなく共通項を探す
自分のアイデアを実現するための仲間を引き込むために重要なのは、仲間になろうと説得することではなく共通項を探すことが重要であると述べられています。他者の価値観を変えるのは難しいが、自分と相手とすでに同じ価値観を見つけ、結びつけることははるかに簡単であると述べられています。
オリジナルな人になる可能性
生まれた順番で将来の成功する分野がわかる!?
科学史家のフランク・サロウェイと心理学者のリチャード・ズワイゲンハフトの調査によると、生まれが第二子以降である「弟」の野球選手は、生まれが第一子である「兄」の野球選手よりも、10.6倍も盗塁を試みる可能性が高かったそうです。
さらに第一子は野球やゴルフ、テニス、陸上など安全なスポーツをやることが多かったのに対し、フットボール、ラグビー、スキー・ジャンプなど怪我が多い競技をやる選手には第二子以降が多かったそう。このように第二子以降に生まれた人は、第一子で生まれた人よりもリスクを取る傾向があります。
オリジナリティを発揮させるしつけ方法とは
教育研究家のサミュエル・オリナーとパール・オリナー兄弟は、ユダヤ人大虐殺において命の危険を犯してまでもユダヤ人を救った非ユダヤ人と、助けるまでに至らなかった非ユダヤ人たちとの比較を行う研究を行いました。その結果、ユダヤ人を救った人たちは幼少期に、親から『なぜ怒られているのか説明を受ける』しつけをされたことがわかりました。つまり自分の行動が周りの人にどのような影響を及ぼすか考えるようにしつけられたのです。
ダメになる組織、飛躍する組織
なぜ強い組織がだめになってしまうのか
なぜ一流と呼ばれる大企業が失敗してしまうのでしょうか。企業戦略の研究者であるマイケル・マクドナルドとジェームズ・ウェストファルの研究によると、会社の業績が低迷すればするほど、CEOたちは「同じような視点」を持つ人達の意見ばかり取り入れていたと判明しました。
あなたの組織に「多様性」はあるか
著者は強い文化を作り上げるためには、コアになる価値観の一つとして「多様性」を掲げなくてはならないと述べています。アメリカの企業ブリッジウォーターでは、部下がCEOのプレゼンをA~Fで評価することを歓迎する風土を掲げています。
世界を創造する人の3つの特徴とは
ブリッジウォーターのCEOレイ・ダリオは、世界中の「影響力のある人」にインタビューを行い、世界を創造する人には次の3つの特徴があると述べています。
- 好奇心が強い
- まわりに同調しない
- 反抗的
こういった人たちは地位や階層などを気にせず残酷なまでに素直であると言います。
荒波を乗りこなせ!大勝負のために知っておくべきこと
落ち着こうとすると逆効果
誰しも緊張する事はあるでしょう。そういった際に多く言われる「落ち着け」というアドバイスは実は的を得ているとは言い難いです。実際は強烈な感情を押さえつけようとすると逆効果になってしまうため、違う感情にすり替えたほうが簡単です。
ビビリが良いか飛び込むのが良いか
心理学者のジュリー・ノレムは、2つの戦略があることを述べています。
- 戦略的楽観主義:最高の結果を予測し冷静を保ち目標を高く設定すること
- 防衛的悲観主義:最悪の結果を想定し、不安を感じながら起こりうるあらゆる事態を予測しておくこと
ある行動を取ろうとしているときにネガティブに考えることは危険です。しかし一旦行動を移す心持ちが決まり、不安が襲ってきたときには、防衛的悲観主義をとり、不安に向き合うほうが良いです。この場合無理にポジティブに物事を見ようとするのではなく、恐怖を受け入れることが重要です。
内なるエネルギーの使い方
心理学者のブラッド・ブッシュマンによると、人は怒りを感じたときにその対象を思い浮かべてサンドバックを殴るとさらに怒りの感情が増幅されることがわかっています。よくストレス発散と言いますが、方法を間違えるとストレスを増幅させかねません。怒りを感じたときには静かに座っていることが一番良いと科学的に明らかになっているのです。
では、この怒りをオリジナリティのエネルギーにするにはどうすれ良いのでしょうか。
研究によると、「他者に対して」怒りを感じていると復讐心が生じますが、「他者のために」怒りを感じていると、正義やより良いシステムをつくる動機になると言います。自分のために怒るのではなく他者に対する思いやりを忘れてはいけないのです。
総評・感想
『ORIGINALS』の要約・解説を行いました。当たり前のことのようですが、実際に説明されるとなるほどと落とし込まれることばかりでした。個人的には創作の質より量の部分がおもしろかったです。自分の考えの持ち方や、仲間の増やし方など、個人でも組織でも多くの分野で使えるヒントがたくさん散りばめられた一冊です。ここで紹介したなかでもたくさんのユニークな研究や事例が載っているためぜひ書籍でも読んでみてください。
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